税務調査における反面調査
一口に税務調査といっても複数の種類が存在しており、反面調査はその中の一種です。
本調査先である会社に対し調査が行われる際に、その会社と関係を持っている取引先などにまで調査がおよぶことがあります。
このとき、取引先などに該当するところに入る調査のことを反面調査といいますが、どういった特徴があるのか詳しく見ていきましょう。
反面調査の対象と実施する目的
冒頭で本調査先の取引先などに調査が入ると述べましたが、などの部分が引っかかったという方もいるでしょう。
反面調査は取引先のみならず、従業員やその家族までを対象として行われることがあるのです。しかも、在職中の従業員やその家族までにとどまるとは限りません。
すでに辞めてしまっている元従業員やその家族にまで調査の手がまわることもあります。さらに、取引先も得意先、仕入先、大家、銀行にまで調査のメスが入るケースもあり、本調査先以外の多くの人が巻き込まれることになるのです。
反面調査を実施することでの狙いとは
反面調査は、本調査先への税務調査と必ずセットで行われるものではありません。
本調査先が非協力的で、資料の不備や質問への回答の拒否、虚偽などで証拠不十分となると、調査を完了できなくなります。また本調査先に対する税務調査に着手するにあたって、すでに脱税の疑いがかかっている場合も多いです。
この問題を証拠としての裏づけを取ることで解消するのが、反面調査を実施する目的です。
本調査先の調査中に反面調査が行われるケースもあれば、反面調査が先行する場合もあります。
事前通知の有無と調査拒否の可否
税務調査の中でも一番多く行われているのは、事前通知の上で申告内容の適正さがチェックされる一般調査です。
事前通知は会社または税理士など税務代理人に対し、電話をかけて口頭で行われるシステムになっています。これが反面調査の場合はどうかというと、事前通知について法律で何か決まりが設けられているわけではありません。
運用上、基本的に対象者に連絡を入れることとはなっていますが、実際には電話連絡はなく、とつぜんやって来るケースが大部分を占めます。これには口裏合わせを封じたり、証拠資料の改ざんや隠ぺいを阻止する狙いがあってのことです。
反面調査の回避は可能?
予告なく調査官に来られても困る方が多いでしょうが、反面調査の対象者は調査官が来た際、その場での対応が必須なわけではありません。
たとえば、調査に対応すべき人間が出張や会議でいないケースなどは十分に考えられる話です。こうした正当な理由がある場合には、後日改めて調査を受けることを申し出ることが可能となっています。
なお本調査先としては、権限を持つ調査官が合理的と判断すれば了解なく反面調査ができるという判例がある以上、拒否は困難です。反面調査の拒否、口裏合わせなどの工作をすると、1年以下の懲役か50万円以下の罰金のペナルティを受ける法律が定められているのです。
反面調査のリスク
不正行為をしている場合、それが白日の下にさらされる形になり、法律にもとづいたペナルティを受ける以外のリスクもあります。
本調査先にとって恐いのは、追徴課税だけではないのです。たとえば反面調査の対象となった取引先などとの関係が、悪化してしまうリスクがあります。税務調査をきっかけにお付き合いが終わりになってしまう恐れがあるだけでなく、取引先などが風評被害を受けてしまうことにもなりかねません。
実際には不正がなくても、税務調査が入るイコール悪事を働いているという一般的なイメージで、取引先が加担したと思われる恐れがあります。融資を受けている銀行に反面調査が行われれば信用が低下し、資金調達が困難になってしまうリスクもあるのです。
このように、反面調査は本調査先にとっても取引先などにとっても、メリットは何ひとつない税務調査といえます。
ただ疑いをかけられた結果、潔白を証明できるという点はメリットであるといえるでしょう。また税務調査が行われること自体、本調査先にとって負担は大きいです。
税理士などの税務代理人がついていない場合で、適切な対処ができる自信がないと、新たに相談依頼することもあるでしょう。それにかかる費用負担のことなども、考慮しなければいけません。
反面調査の内容
反面調査の内容は、通常の税務調査とは異なります。
本調査先との取引のみについて、税務処理が適切かつ整合性が取れているか調査が行われることになるのが普通です。
調査は反面調査の対象者のところへ訪問することもあれば、文書や電話連絡によって行われることもあります。
どの方法による調査が行われるとしても、本調査先と無関係な別の取引先との取引資料まで見せる必要はありません。
また本調査先としては、本当に必要な調査なのかの確認はしましょう。証拠資料がすべて残っているにもかかわらず、反面調査が実施されるのはおかしな話です。
反面調査に対応すべき人が不在の場合
すでに述べたように、反面調査は不正行為が隠されてしまうのを避けるために、抜き打ちで行われることが多いです。しかし本調査先の取引先などの調査に対応すべき代表者などがいなければ、調査官であるという正体を知られないようにすることがあります。
何の用で連絡してきたのか、訪問してきたのかを伝えずにいったん退散することがあるのです。
これも口裏合わせなど防ぐ狙いがあるのでしょうが、対応すべき人がいない場合でも用件や調査官の名前や部署を聞きましょう。
また、訪問してきたということであれば、名詞をもらっておくようにしたいところです。
そうすることで対応すべき人の気づきを促すことができ、円滑な処理につながるほか、調査官を装った人間による被害を防げます。
反面調査は任意調査
反面調査は税務調査といっても強制調査ではありません。任意調査の一種として、反面調査は存在しているのです。
協力的な姿勢でいることは好ましいのですが、何でも応じなければいけないわけではないのです。
たとえば、本調査先から協力要請がなければ、帳簿類や証憑などの写しを証拠保全目的に求められた場合、応じなくてもよいでしょう。
ほかにも税金徴収のための証拠保全を目的とした確認書や申立書を用意するように伝えられた場合も、応じることは強制ではありません。
注意したい聴取書
反面調査では、調査を行う人間が聴取書をまとめようとすることがあります。
これは調査官が本調査先と行われた取引に関するインタビューをし、それを書面に残すというものです。
質問を受けた人は書類に名前を書いて、ハンコを押すことになります。
実際に行われる質問の中には、税務署側に有利になる誘導するような内容が含まれることが珍しくありません。しかも誘導質問された部分に関しては、文書上では表現を変えて記載され、事実関係が歪められることも珍しくないです。
質問と回答の内容は正確に記載するのを求めることが重要ですし、名前を書くのもハンコを押すのも任意であることを覚えておきましょう。
不正行為をしていなければ、反面調査を受けることになった取引先などは堂々としているとよいでしょう。
風評被害のリスクはありますが、調査で悪事を働いていなかったと証明できれば、仮に変な噂が出たとしても汚名返上できるはずです。
余裕を持って税務調査の一種である反面調査を受けるためにも、証拠となる資料はしっかりと保存しておきましょう。