税務調査で金融機関の預貯金口座も調査される?

通常の税務調査は、会社の帳簿や書類などの確認を行います。しかし、それだけでは正確な情報が手に入らないと判断された場合、税務調査官は、会社の銀行や取引先などからも情報を集めることが出来ます。

 

なぜなら、「国税通則法」という法律によって、税務職員は質問検査権(質問や帳簿書類を確認することができる権利)を持っているからです。そして国税通則法第74条の2には、納税者への直接的な調査はもとより、納税者と取引のある者、金銭の受け払いがある者も調査の対象となることが、記載されています。よって、納税者の取引銀行や納税者の家族も調査の範囲に含まれるのです。そのため、税務調査で担当官が必要と判断した場合、預貯金口座を調査されることは、違法ではありません。

 

ただ、ここで気になるのが、個人情報保護法の存在です。平成29年5月30日に個人情報保護法が改正され、中小企業をはじめとするすべての事業者が適用対象となりました。そして銀行は本来、個人情報保護法によって外部に情報を漏らすことはできません。しかし法令により情報の開示を求められた場合は、「適用除外」となるため、銀行側も開示をする義務が生じるのです。

税務署は黙って金融機関を調査をする?

税務署が会社の関係金融機関を調査する場合、事前通知はあるのでしょうか。

 

法令上では、事前通知をしなければならないという規定はありません。しかし国税庁が公表している税務調査Q&Aには、「運用上、原則として、あらかじめその対象者の方へ連絡を行うこととしています」と記載されています。

 

ですが、実際に税務調査が行なわれる際は、いきなりである場合がほとんどです。なぜなら税務調査官は、会社と金融機関が口裏を合わせ、証拠書類の改ざんや隠ぺいを警戒しているからです。ただ、会社においては、税務調査よりも企業活動が優先されますから、やむを得ない事情がある場合は、延期を申し出ることも可能です。

 

2009年には、広島県商工団体連合会と県下の9民主商工会が、広島銀行本店、広島国税局と交渉を行い、税務調査への対応で是正を求めた例もあります。この時は銀行と国税局が誠実な対応を約束しました。

 

税法への知識があると、このような場合にも落ち着いた対応が出来るでしょう。

国税庁が示す金融機関への取引照会のガイドライン

国税庁は、2016年3月に、「国税庁における金融機関の取引照会」を公表しました。

 

ここには、国税庁の使命が、「納税者の自発的な納税義務の履行を適正かつ円滑に実現する」であることが明記されています。また、金融機関の取引照会の必要性を「納税者本人への調査のみでは把握できない重要な情報を収集する貴重な機会」と記載しています。

 

調査方法としては、「実地に臨場して実施」と「文書照会による実施」の2種類があり、個々の税務調査等の内容に応じて、確認を要する事項の重要性・緊急性等を考慮しつつ随時実施する必要があると述べています。

反面調査とはなんだろう?

税務調査が、会社の取引先や関係金融機関にも実施されることを、「反面調査」と言います。そして拒否をすることは出来ません。

 

東京高等裁判所の判決でも、「反面調査は、諸般の事情にかんがみ客観的な必要性があり、かつ社会通念上相当な限度にとどまる限り、その時期・程度については、権限ある税務職員の合理的な判断に委ねられる」と出ており、納税者の了解を伴わない反面調査を認めているのです。

 

とはいえ、国税庁の税務運営方針には、「反面調査は客観的にみてやむを得ないと認められる場合に限って行なう」と定められていますから、むやみやたらに調査をされるわけではありません。

 

なお、反面調査を拒否した、口裏合わせ等の虚偽の答弁をした場合は、法人税法等の規定により1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処されます。

反面調査になるのは、どのようなとき?

脱税の疑いをもたれてしまった場合は当然行われます。しかし、帳簿の提示を拒む、質問に答えないなど、非協力的な態度をとると、対象になる場合があります。他にも偽りの答弁をするなどの不誠実な態度や、帳簿が未保存あるいは記述が不正確などの不備でも、可能性が高まります。つまり、担当調査官が「会社の書類だけでは、信用が出来ない」と感じると、税務調査が不十分と判断されるのです。

 

とはいえ調査時に、悪意はないのに誤解をされてしまうこともあるでしょう。このような場合は、過去の判例や事例に基づいて、その妥当性を認めてもらう必要があります。

 

あらかじめ知識のある者に相談するなどして、日頃から不備をチェックしておくのが良いでしょう。

金融機関と税務署の関係って?

反面調査が行われる金融機関は、銀行である場合がほとんどでしょう。では税務調査官は銀行から、どの程度の情報を知ることが出来るのでしょうか。

 

税務署は、銀行口座をすべて把握することができます。もし税務調査官が本気で挑めば、引き出しや預け入れ、振込や入金など、あらゆることを調べられてしまうでしょう。しかし調査時間には限りがありますから、実際に何もかもを知られることは、まずありません。

税務署の反面調査はどこまで調べるの?

反面調査では、具体的にどのようなことをするのでしょうか。

 

調査担当者は、まず調査対象者と調査税目の説明を行い、銀行側の了解をもらってから調査を始めます。

 

口座は法人名義だけでなく、関係者の個人口座、簿外預金の把握にも努めます。また、窓口にきているのは誰かもチェックします。銀行の窓口で多額な入出金をする場合に求められる本人確認書類をチェックすることで把握が出来るためです。また、ATMであれば防犯カメラがついていますので、その映像を確認することも行います。

 

入金伝票や出金伝票、貸金庫も調査の対象です。貸金庫を利用している法人であれば、何を保管しているのかを尋ねます。貸金庫の中身を確認する時は、必ず社長または関係者の同行が必要になります。

 

もし該当銀行がインターネットバンキングの場合は、法人のパソコンなどで取引履歴を確認することになります。

 

また、法人の売上金を社長や家族名義の通帳に振り込ませ、売上をごまかしていることがあるので、こちらもチェックします。特にベテランの調査員は、過去にこのようなケースに遭遇しています。不要な違和感をもたれないためにも、事業用に個人名義の通帳を利用している場合は、注意しましょう。

税務調査はいつ来るの?流れと時期について

税務調査は、何年ごとに行われるという決まりはありません。その会社の規模、業績、業種などによって、周期が異なります。

 

中小企業なら、多くても3年に1回ほどです。これは、1回の税務調査で3年分を調べるというのが一般的なためです。また、設立された新しい会社は、2、3年のうちに無くなってしまうケースが少なくありません。そのような無駄を避ける意味合いもあるのです。さらに規模の小さな会社なら、5年、7年、あるいは10年に1回というペースでの税務調査となることもあります。

 

しかし設立2年目だからといって、税務調査が絶対にないとは言えません。大幅な黒字が出ている、税務署が疑問を持つ点があるなどの場合は、調査対象となるケースがあります。できる限りの準備はしておきましょう。

 

また税務調査は、秋に多いと言われています。税務署は7月から翌年6月が事務年度となっています。このサイクルに合わせて、6月頃までに申告書が提出されるのです。それを7月、8月中にチェックしていきます。そのため、9月から12月の間に実地調査を行う流れになるようです。1月から3月にかけては所得税の確定申告があるため、一番の繁忙時期に入ります。